目次
1on1ミーティングやビジネスコーチングにおいて、「質問」して沈黙した場合、どのくらい待てばいいのか。どのように対処するのがいいのかという質問を、コーチング講座の中でいただいた。今日のブログはそれにお答えしようと思う。
コーチングは忍耐
「コーチングは時間が掛かる」
「コーチングは忍耐が必要」
コーチングが人を支援するひとつのツールであり、コミュニケーションの有効な道具でもある。そして、ティーチングに慣れ親しんできた人は、意識とやり方の明確な変換が必要だ。
コーチングの基本的なプロセス
誤解を恐れず言えば、コーチングは基本的に以下のプロセスを歩む。
「質問」のち「傾聴」ときどき「承認」または「フィードバック」(まれに提案←どうしても必要であれば)
基本的には、「質問」して「傾聴」するこの繰り返しが、コーチングにおける大部分の流れだ。
コーチングにおける質問のちから
質問はさまざまな可能性と効果を秘めている。
考える力を強くする
質問されて答えるまでのプロセスは、以下のようになる。
1.何を質問されているのか考える(質問理解)
2.質問の自分なりの答えを自分の頭に探しに行く(脳内サーチ)
3.出た答えを説明者が理解できるようにアウトプットする(論理的説明)
質問はストレス
上記のプロセスは質問に慣れていない多くの人にとって、ストレスな事柄である。「質問はストレスだ」なんて意識もしないだろうが、「質問に答え切る」というのは結構大変なことであり、脳みそには結構なストレスが掛かっている。それがこれまで聴かれたことのないような切り口であったり、自分の知識や経験の中にはない事柄に関して訊かれているのであればなおさら、そのストレスの度合いは高まる。
筋トレもストレス
筋トレも同じ。負荷を掛けて繰り返すプロセスはなんともきつい。ただ、そのプロセスを経るからこそ、必要な筋力が身につき、より大きな負荷に耐えることができるようになったり、反応が早くなったりする。質問に答える力、つまり、考える力も筋トレと同様に鍛えることが必要なのだ。
思考を明確にし整理する
質問によって、情報を整理することができる。頭の中にアクセスして、自分が何を考えているのか。あるいは何を考えたいと思っているのか。現状の把握や未来の明確化といった「整理」に役立つ。
膨大な情報量
人は日々、たくさんの情報を処理している。いろいろな論文やデータがあるが、毎秒100万〜1000万ビットの情報を、五感を通じてインプットしている。そのうち、意識できるものは数万分の1である、126ビットほどであると言われる。
私のブログは2000文字程度になることが多く、これはおよそ4000バイトであり、32,000ビット。
したがって、100万〜1000万の情報というものがどれだけ膨大かということは、理解していただけると思う。
わかっているようでわかってない自分の頭の中
私たちはたくさんの情報にふれ、意識して処理しているものと、無意識的に処理しているものがある。まあ、何が言いたいかというと、頭の中はぐちゃぐちゃだということ。わかっているようでわかっていない。答えがあるようで答えがない。明確なようで明確でない。と、こんな状態である。
新しい発想を生み出す
質問によって、今までなかった新しい発想を生み出す可能性がある。内省しながら、自問自答を繰り返し答えを出していくということもあるが、人から自分の枠の中にはない質問を投げかけられることで、思わぬ化学反応が起きることがある。まるで電球が光るような。あるいは、雷が落ちるような。
沈黙こわい
というわけで、質問することは、相手にとってたくさんの効果をもたらすものだ。一方で質問につきものなのが、「沈黙」だ。沈黙は多くの人が恐れる。あるいは、沈黙を「もったいないもの」と捉える。
それゆえに、いたずらに沈黙を破るという行為に及んでしまう。
よくある致命的な沈黙の破り方は以下の2つ
質問を変える
「質問の仕方が悪かったかな?」「質問が難しかったかな?」と勝手に判断し、質問の切り口や角度や内容を変えてしまう。しかし、相手の頭の中では何が起こっていた可能性があるかというと、自分なりに頭を回して答えを探していた可能性があるし、答えはすでに見つかっていて、どのように表現すればいいかを考えていた可能性もある。
それを中断して違う質問が投げられるわけで、せっかく出した答えは闇の中に葬られてしまう。それが陽の目をみるきっかけを失ってしまうわけだ。
答えを教える
こちらの方が致命的。自分が考えていたところに、経験豊かな人の正しい答えが投げかけられれば、自分の答えは価値のないものとして捨て去れられる。そして、この体験が積み重なると、考えることすらやめてしまう可能性がある。「どうせ考えても、相手の答えにかき消される」という意識に変わってしまう。そうすると、「指示待ち・受け身・答え待ち」の意識が相手に生まれ、考える力を育てることは難しくなっていく。
沈黙への対処の仕方はただひとつ
そうは言っても長い沈黙が続く時はどうすればいいのか。沈黙は相手が考えている大切な機会として尊重して待つこと。これが基本。しかしあまりにも長いと感じるとき(3分など沈黙が続くなど)するときは、質問を投げることで対応する。
「今どんな状態?」(あるいは「今どんなことを考えている?」)
必ずオープンクエスチョンで、相手の状態を確認する。
そうすると、相手の今の状態がわかる。
沈黙の状態4つとその対処法
「答えが出ない」
真剣に考えを出そうとしているけれど、答えが出ないという状態。
この場合の対処は以下の3つが考えられる。
・引き続きその場で考えてもらう
・宿題として、翌日改めて訊くなど、少し時間を置く
・答えを教える
相手の成長段階や組織的な業務状況、あるいは育成の方針により、必要な対応をすればいい。
「いろいろ考えが出すぎてまとまらない」
この場合は、「まとめなくていいから、浮かんでいる考えを端から教えてくれる?」と伝えることで、相手の思考をテーブルに乗せていく。
人は「まとめてから答えを出すべき」という考えに縛られていたりする。ビジネスマンは時間がないので、情報のやりとりをコンパクトにするために、要点をまとめることを要求されていたり、論理的に話をすることを求められていたりするためだ。
しかし時に、コーチングにおいてはこれを外してあげることも必要だ。
片っ端から話をしてもらうことで、相手の頭の中を知ることができるし、知ったところで何らかのサポートが可能かもしれないし、また、相手が話を口にすることを通じて自己解決していく可能性もある。
「考えているフリ」
これはすでにできている関係性から、「黙っていればそのうち答えを教えてくれるはず」という、在る種の戦略のもと、沈黙の状態を生んでいる。
コーチは考えているフリを許さないし、それに乗るべきではない。というわけで、こちらも、自分で答えを出すまで改めて待つことになる。必要に応じて、「こちらから答えを教えることはない」ということや「自分で答えを出すことの重要性・必要性」を伝える必要があるかもしれない。
別のことを考えている
人の思考は連想ゲームを始めるリスクもはらんでいる。考え始めると、枝葉に別れながら、気がつくと全く違うことを考えていることがある。
極端に言えば、「今月の目標」を訊かれていたのに、気がつくと「今日の晩ごはん」を考えていたり。
というわけで、この場合の対処は簡単。もう一度、同じ質問を投げればいい。
まとめ
沈黙は、人の思考を鍛えたり、整理する上で必要不可欠な時間だったりする。多くのビジネスマンは沈黙が許されない立場や環境や関係性に置かれている。「沈黙はもったいないもの」という考え方を少し脇において「沈黙は可能性」という新しい考え方、プログラムをインストールしてみてはどうか。今までとは違う、育成の広がりやスピードを実感できるかもしれないし、関係性の変化があるかもしれない。