本日はとある会社にてコーチングの研修を実施してきた。
質問をいただいた。
「信頼関係がない」という組織の前提に立ったときに、どのようにコーチングの要素を活かしていけるのか。
うーん、難しい質問。

コーチングとラポール。ラポールというのは信頼関係のこと。
コーチングを機能させるためには、「信頼関係(ラポール)」が欠かせない。
これは、コーチングの研修において、前提として伝えること。

信頼関係は目的ではない。
でも、組織として成果をつくるために、信頼関係はプロセスにおいてあった方がいい。

コーチングで明らかにすること

コーチングは、相手が望む状態を手にしていくためのプロセスを支援する。そのプロセスにおいて、プレーヤーがパフォーマンスを最大化していくというのが、コーチの役割。そのためにはなんでもするのだが…、いろいろなアプローチがある。その中でよくやることは、以下の3つの要素を明らかにすること。それは、「ゴール」「現状」「現状とゴールのギャップを埋めるやり方」

ゴール

ゴールは目的地。どうなったらいいのかということ。何を手にしたい?どんな状態になったらいい?どんな自分でありたい?目標は何?ビジョンは?
未来の望む姿や状態を明らかにしていくために、質問をしながら、相手にありのままを話してもらう。
多くの人は、目標やビジョンを明確には持っていない。自分が何を望んでいるのか。どこに向っているのか。自分のことながら、あまり考えもしなかったり、あるけど諦めてしまっていたりする。
しかし、どうであっても、この望む状態を明らかに、具体的にしていくことは、重要なことであり、コーチがサポートすべきところである。

現状

現状というのは、今どういう状態であるのかということ。
現状というのも、思うほどわかっていない。多くの人は忙しい。自分が一生懸命目の前の仕事に没頭していればいるほどに、現状というのは見えづらい状況になっている。
例えて言うのであれば、荒波の中で揉まれているような状況であり、波の状態であったり、周りの状態であったり、自分の体勢であったりが、どのようになっているのは把握できない状況になっている。

一方で、自分の都合のいい側面しか見ないという状況もあります。不都合な現状というのは見たくないもの、目を背けたくなるもの。人間の反応としては、ごくごく自然なこととも思います。
しかし、現状はありのまま捉えなければなりません。うまくいっていないことも認めないかぎり、適切な対応はできません。不足している能力。うまくつくれない人間関係。なんらかの隠したい失敗やミス。それらのことを「認める」からこそ、次の一歩を踏み出すことができます。

現状とゴールのギャップを埋めるやり方

上記の、「ゴール」と「現状」が曖昧な状態ではなく、明確になったり、具体的になると、そのギャップが明確になります。ギャップが正確にわかると、そのギャップはどのように埋めるのが効果的なのかがわかります。
だからこそ、上記の「ゴール」と「現状」を正しく認めていくことは重要なのですが…。
カーナビや地図アプリのように、目的地が明確であり、現在地がGPSを使って正確にわかっていると、正しい道案内が可能となります。道筋はいろいろありますが、その中で最適なものを提示してくれるわけです。でも「ゴール」と「現在地」のどちらかがズレていれば、適切な道筋を示すことは難しくなります。

信頼関係がないとコーチングが機能しない理由

コーチとプレーヤーの間に信頼関係がないと、どうなるか。ひとつは、「上司の言うことはきかない」という状況が起きます。もうひとつは、「真実を言わない」という状況が起きます。

上司の言うことを聴かない

どれだけ正しいメッセージを発していても、相手が受け入れなければ何の意味もありません。コーチングにおいては、上司の提案を選択肢のひとつとして受け入れ、自分のアイデアも含めて最適なアイデアを決定していくというプロセスが必要です。しかし、上司の言うことを聴き入れない程度の信頼関係では、コーチングは十分に機能できません。

真実を言わない

質問に対して正しく答えない。持っている情報を表に出さない。言うことと言わないことを区別している。このようなことが起きれば、コーチングは機能しません。
これも前述のとおり、「ゴール」にしても「現状」にしても、それが曖昧になったり、ぼやけたり、位置がずれたりすれば、正しい「ギャップ」を明らかにすることができません。
「嘘をつく」「隠し事をする」「ごまかす」「フリをする」といった要素が、ゴールや現在地をずらします。現在地がずれたということは、すでにアプローチが違うということ。これでは、コーチングが機能するわけがありません。

相手がどうであってもこちらの影響で信頼関係をつくっていくというスタンス

相手が信頼してくれるかどうかはわかりません。相手の性格、価値観、育ってきた環境、ものの見方や考え方、それらをコーチが変えようとしても、本人が「変える」と決めなければ無理なわけです。こちらがどれだけ素晴らしい対応をしていたとしても、相手が変わるかどうかは相手次第。過去(の出来事)と他人は変えられません。
そして、コーチのスタンスとして、相手がどうであっても、相手を信じ、相手の望むところを見つけるサポートをし、伴走していくというスタンスは変わりません。そのスタンスを100%コーチが生きて、何年関わったとしても、相手に変化があるかどうかはわからないのです。
しかしどうであっても、コーチは自分のスタンスを貫くことが大事なのです。

コーチングは忍耐と時間が必要

コーチングはいろいろな意味で忍耐が必要です。質問をして、相手が答えを出すまで街づつける忍耐。関わり続けて相手が変わるのを待つ忍耐。相手の話を根気よく聴き続ける忍耐。など。

まとめ

相手が信じてくれないから、自分も信じない。この論理は、無意識に行きやすいところです。世の中はギブアンドテイクの意識がどうしてもありますから、「こうしてもらえるならこうしてあげる」という意識になりやすい。ギブアンドテイクというよりもていくアンドギブですね。
でも相手がどうであっても、自分は信じられるかどうか。ギブアンドギブの精神が、コーチには求められます。相手がどうであっても、相手を信じる姿勢を貫けるか。これが信頼関係を結果的につくり、相手が自分を信頼して、相手が望む結果、そしてそのためのパフォーマンスを手にしていくための、非常に重要な要素であることは間違いありません。どのくらい周りの人を信じられるか。人はゆらぎます。揺らぐことを責める必要は全くありません。反応としては出ますから。そして「揺らいだ」と気づいたときにどのような選択をするかということが重要です。

「改めて相手を信じる」

この決断が、強い信頼関係をつくり、望む未来をつくっていくと信じています。

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